第3章: サーバーへの扉を開く「SSH接続」
前回、私たちはVPSを契約し、自分だけのサーバーとその「住所」であるグローバルIPアドレスを手に入れました。広大なインターネットの世界に、あなただけの「部屋」ができた状態です。
今回は、その部屋に入るための「鍵」と「扉」の役割を果たすSSHという技術を使い、初めてサーバーにログインするまでの全手順を解説します。ここが、黒い画面と友達になるための、最も重要な第一歩です。
SSHとは? なぜ必要?
SSH(Secure SHell)は、一言でいうと**「遠く離れたコンピュータを、安全に遠隔操作するための仕組み」**です。
あなたのPCとサーバーの間に、誰にも内容を覗き見られたり、改ざんされたりしない暗号化された秘密のトンネルを作る技術だと考えてください。この安全なトンネルを通して、私たちはサーバーに「このコマンドを実行して!」と命令を送ることができます。
あなたがサーバーにログインする際のユーザー名やパスワードも、このトンネルを通るので安全です。
ステップ1:冒険の入り口「ターミナル」を開く
SSHでサーバーに接続するには、「ターミナル」と呼ばれる黒い画面のアプリケーションを使います。これからの冒険で、あなたの相棒となるツールです。
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Windowsの場合: スタートメニューで「Terminal」と検索し、Windows Terminalを起動します。もし見つからなければ、Microsoft Storeから無料でインストールできます。これが最もモダンで使いやすい選択肢です。(古いPCの場合は「コマンドプロンプト」や「PowerShell」でも代用可能です)
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Macの場合:
アプリケーションフォルダ →ユーティリティフォルダの中にある「ターミナル.app」を起動します。
ステップ2:SSHコマンドで接続する
ターミナルを開いたら、いよいよサーバーへの扉を開くための呪文、sshコマンドを打ち込みます。
以下のrootの部分と123.45.67.89の部分を、あなたが契約したVPSの情報に書き換えてください。
ssh root@123.45.67.89
ssh: これからSSHで接続しますよ、という命令です。root: ログインするユーザー名です。ほとんどのVPSでは、契約直後の最初のログインはrootという名前の、何でもできる最強の管理者ユーザーで行います。123.45.67.89: 第2章で手に入れた、あなたのサーバーのグローバルIPアドレスです。
コマンドを打ち込んでEnterキーを押すと、サーバーとあなたのPCが初めての「挨拶」を交わします。
ステップ3:初めての挨拶(対話形式の確認)
ここからは、ターミナルがいくつか質問をしてきます。意味を理解すれば怖くありません。
質問①:「このサーバーは初めて見るけど、信用していい?」(ホストキーの確認)
初めて接続するサーバーに対して、あなたのPCは警戒して以下のようなメッセージを表示します。
The authenticity of host '123.45.67.89 (123.45.67.89)' can't be established.
...
Are you sure you want to continue connecting (yes/no/[fingerprint])?
これは「初めて会う相手だけど、本当に接続して大丈夫?」と聞かれているだけです。yesと入力してEnterキーを押してください。これで、あなたのPCはこのサーバーを「知人」として記憶します。
質問②:「合言葉は?」(パスワード認証)
次に、パスワードの入力を求められます。
Warning: Permanently added '123.45.67.89' to the list of known hosts.
root@123.45.67.89's password:
ここで、あなたがVPS契約時に設定した**rootユーザーのパスワード**を入力します。
【⚠️ 初心者が絶対につまずく最重要ポイント ⚠️】
セキュリティのため、パスワードを入力しても、カーソルは一切動きませんし、*のような文字も表示されません。
一見、何も入力できていないように見えますが、ちゃんと認識されています。慌てず、正確にパスワードを最後まで打ち込んで、Enterキーを押してください。
ログイン成功!サーバーの世界へようこそ
パスワードが正しければ、画面にサーバーからの歓迎メッセージ(OSのバージョン情報など)が表示され、最後に以下のような行が表示されます。
root@hostname:~#
おめでとうございます! これが、あなたがサーバーの中にログインし、操作できる状態になった証です。
root:rootというユーザーでログインしています。@hostname:hostnameという名前のコンピュータにいます。~: 今いる場所は、あなたのホームディレクトリです。#: あなたが最強の管理者(root)であることを示す記号です。(一般ユーザーの場合は$になります)
最初の対話:3つの基本コマンド
せっかくなので、いくつか簡単なコマンドを打って、サーバーと対話してみましょう。
pwd - 「今どこ?」
自分がファイルシステムのどこにいるのか、現在地を表示します。
pwd
ls -la - 「周りには何がある?」
今いる場所にあるファイルやフォルダを、隠しファイルも含めて詳細に一覧表示します。エンジニアが非常によく使うコマンドです。
ls -la
whoami - 「私は誰?」
現在どのユーザーとしてログインしているか、自分の名前を表示します。今はrootと表示されるはずです。
whoami
次回予告: 無事にサーバーの中に入り、最初の対話もできましたね。 しかし、まだ私たちはこの世界の「言葉」をほとんど知りません。 次回、第4章では、この黒い画面の世界を自由に冒険するための、ファイル操作やディレクトリ移動といった基本的なLinuxコマンドを本格的に学んでいきます!